大橋悠依と斎藤佑樹に共通する「あの時」とは

夜のニュースのスポーツコーナーの一場面。東京五輪で金メダル2つ獲得の大橋悠依に、寺川綾が質問した。

「金メダルを取って見える風景とは?」

寺川は金メダルを取っていない。ロンドン五輪背泳ぎ100m銅メダリストだ。

「ベストを出したい」

憧憬の眼差しで、大橋は言った。

5年前にベストタイムを出した瞬間を思い出している。くるくると腕を回すだけで、まるで水に押されるように体が進んだという。余計な力を使わないのに、滑るように体が進むその感覚をまた味わいたいのだ。

卑近な例だが、昔、わずかに体験したゴルフを思い出した。たまに調子がいいと、スイングの重さを全く感じないのに、球が真っ直ぐ、素晴らしい直線を描いてどこまでも飛んでいくことがあった。

もう一つ思い出すのは、早実高校時代の斎藤佑樹のピッチングだ。2006年、夏の甲子園の決勝で、駒大苫小牧の田中将大と投げ合った。

延長15回を投げ抜き、引分け再試合となりながら、翌日の再試合でも志願の登板、最後は田中から三振を奪って優勝するのだ。

疲れていたはずだ。しかし斎藤が力感のないフォームから放った白球は、なぜか糸を引くように打者の外角低めにどこまでも伸びていったのを覚えている。

怪我もあったかもしれない。しかしその後、斎藤があれ以上素晴らしい球を放るのをついぞ見たことがない。

想像だけれど、斎藤は引退まであの時のストレートを追い続けたのではないだろうか。大橋が遠くを見る目でベストタイムの泳ぎを思い出すように。

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